自分の手がけた仕事や編集に関する記憶を振り返りつつ、印象に残ったことを書き残していきます。
第1回目は最初に手がけた本格的なムック本のことを書きます。気が向いたら、適宜追加していきます。
入社してすぐに1ヶ月以上泊まり込み! 昼夜フル回転の編集現場
私が編集の世界に本格的に入ったのは、30年ほど前のプロダクション入社になります(本格的ではない経験はその前にもアリ)。
編集プロダクションに入った理由は、たまたまでした。その辺のいきさつはあらためてどこかで書こうと思います。
入社して初めて関わったのは、スコラ社から出版されるムック本『男のスーパーカタログ―90年代の動向アイテム商品学 厳選1350 (フレッシュスコラ)』でした。
これです。
anazonを見ると、1990年6月発行となってます。
判型A4、196ページでしたから、そりなりのボリュームでした。
入社したタイミングは春でしょうから、4月くらいでしょうか。入社時はまさに佳境というか、昼も夜もなくフル回転で編集作業が行われていました。
私は入社後、すぐにほとんど家に帰らない日々が続いたと記憶しています。
若い男子にとってはそれは楽しいものでもありました。
合宿気分ってヤツです。
私は「好奇心最優先」「人が好き」というスタンスで生きてきたので、かなり楽しめました。
しかし、いざ現場を体感してみると、そのハードさに身体や心を壊すジャンルというのも納得できました。
編集は単にお金を稼ぐために選ぶ仕事ではありません。
「できる編集者に必要な要素」や「成果物の充実度は、コミュニケーション能力で大きく左右される」にも書きましたが、好奇心が強いとか、コミュニケーションが好きだとか、なにか特殊な部分が突出していないと、編集を続けるのは厳しいんだろうなぁ。。。と痛感させられました。
・ ・ ・
当時、全体の進行が遅かったんだと思います。スコラ社の担当だったFさんが夜になると会社にやってきて、編集作業を手伝っていた記憶があります。
私はこどもの頃からかなりの読書家でしたし、文章を書くのも好きでしたが、編集に関しての知識はゼロ状態でした。
しかし、締切という得体の知れないバケモノに追われながら進行される作業の中で飛び交う会話を横で聞くことによって、編集の基本用語や印刷所やライター、カメラマン、デザイナーなどとの正しい?対応を吸収できました。
とくにスコラ社から来ているFさんと事務所の先輩の会話は興味深かったです。場所が違えば、しきたり的なことも異なってきます。その辺の微妙な違いに関する会話のやりとりも面白かったです。
たとえば……
雨だれはタテにする? ナナメにする?
たとえば「雨だれはタテにする? ナナメにする?」。
こんな会話も最初は「????」でした。
「雨だれ」というのは、「!」のことです。
エクスクラメーションマーク(ビックリマーク)ってやつです。
冒頭の言葉は、「!」の角度を真っ直ぐタテにするのか、ナナメにするのか、どっちで統一しているのかを確認している会話です。
こういう会話がちょいちょい出てきて、それを私は別作業しながら耳を傾け、想像していきました。
ここですぐに聞かないのがミソです。
まずは自分の頭の中で想像する。これが大事です。
そうすると脳味噌の回路が複雑に絡み合い、思考の回転が速くなります。
最終的にこっそり調べたり、聞いたりして確認します。
ハードな日々でしたが、専門学校で1年かけて学ぶ内容を1ヶ月で学べたと思います。
やはり「習うより慣れろ」ですね。
編集の専門用語は山ほどある!
「雨だれ」以外にも編集の専門用語は山ほどあります。
ついでですので、いくつか紹介しましょう。
- 「!」雨だれ→けっこう使った
- 「?」耳だれ→ほとんど使ったことない
- 「!?」ダブルだれ→ほとんど使ったことない
- 「・」中黒→よく使った
- 「()」パーレン→昔の人はよく使っていた
- 「【】」すみつきパーレン→これ自体があまり使われなかった
- 「「」」かぎかっこ→よく使った
- 「『』」二重かっこ→よく使った
- 「……」三点リーダー→よく使った
- 「〜」波ダッシュ→私は波線と言っていた
こういった記号全般を「約物(やくもの/役物)」と呼ばれています。
こういった専門用語も時代ともに変化するケースもあります。会社によっても異なったりします。
まぁ、そんなもんです。
あ、そういえば、象徴的なエピソードをひとつ書いておきます。
「本文」はなんて読む?
私が入社してすぐに注意されたのが、「本文」の読み方でした。
「本文」は……「ほんもん、と言いなさい。ハチが飛んでるんじゃないんだからブンブンうるさい!」みたいな注意だったと思います。
古い編集者ほど「ほんもん」と言う傾向が強かったと思います。
実際のところ「ほんもん」と「ほんぶん」では、それぞれに使いどころがあります。
このニュアンスを説明するとなると面倒なのでしませんが、とにかく「ほんぶんなんて素人みたい言い方するな!」という言葉のは印象的でした。
その後、徐々に「ほんもん」という言葉は耳にしなくなりました。
きっと現在では「ほんもん」は通じないでしょう。
ちょっと悲しいです。
さて、このムック本はグッズカタログですので、さまざまな企業からグッズを借りてセット撮りをしました。
その辺の話はあらためて追記しましょう。